アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラの10試合

PRIDE世代にとっては「青春の柔術マジシャン」”ミノタウロ”ノゲイラが引退ということで、印象に残ってる試合を思い出してみました。

RINGS KOK(2000)
vs Volk Han

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リングスのKOKトーナメントには初回から参戦したノゲイラですが、決勝で不可解な?判定でダン・ヘンダーソンに負けたこともあってブレイクが遅れた感があります。今思うと。そしてその次の高坂剛戦を会場で生で見てるんですが、地味な展開の引き分けだったので記憶になく・・・自分としてはちょっと遅れて注目した選手ではありましたが、その最初としてもこの試合。
リングスファンでありヴォルク・ハン信者である自分にとっては今考えるとものすごい試合。キャリア晩年のハンと若手ノゲイラの最初で最後のこのタイミング。91年頃から「関節技の魔術師」と言われたハンと、この後PRIDEで「柔術マジシャン」と言われることになるノゲイラ。ノゲイラは終始ハンを苦しめ膝十字を極め判定勝利。この試合後ハンが「いつか私の弟子が彼を倒すだろう」と言葉を残し、後年その弟子であるエメリヤーエンコ・ヒョードルが本当にノゲイラを破ることになります。ある意味ノゲイラとヒョードル始まりの瞬間でもあります。
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PRIDE.17(2001)
vs Heath Herring

UFC Fight Pass
PRIDEに来てヘビー級で圧倒的に勝ち続けて、いよいよ設立されるPRIDEヘビー級王座へ文句なしの決定戦進出。GP王者コールマンに勝ってるので決定戦無しでもよかったぐらいの評価でしたが、この時に当たったのは無名の参戦から確実に勝ち星を上げてトップへ登りつめてきたヒース・ヒーリング。プロレスとグレイシーから始まったPRIDEの最初の空気を感じさせない選手で決まる王座。新時代の幕開けでもありました。いろんな選手が捕まってきたノゲイラの技を動いて動いてことごとく逃れるヒーリングに会場は沸きまくり、攻め続けたノゲイラが判定勝利。これぞ世界最高峰!と当時は言えた試合でした。
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Dynamite!(2002)
vs Bob Sapp

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2002年のデビューから一気に日本の格闘技界を荒らしまくったボブ・サップの出世試合。PRIDEで2試合の秒殺KOとK-1での反則負けからいきなり大舞台での当時の世界最強ノゲイラと。WWEみたいな流れです。体力ないんじゃないか、技術ないんじゃないか、いろいろ言われるけどやっぱり底がわからないバケモノというイメージのまま試合開始。速攻で来たノゲイラのタックルを受け止めてのパワーボムはもう漫画の世界。デビュー前の石井館長の紹介からこのパワーボムまで、日本の格闘技界に一石いや巨石を投じる完璧、完璧なストーリーでした。そしてこっちもまだ底見えてないはずのノゲイラがパウンドで追い込まれる。必殺の三角絞めも外される。サップが強いと皆が認識した瞬間から「互角の勝負」として見始め、国立競技場の9万人と全国のスカパーPPVを見てるファンが熱狂と悲鳴。ノゲイラがいつ諦めるか?サップにはやはり何も効かないのか?そうなってきての2R、ノゲイラが下から腕とってコントロールしての腕十字!サップがタップした瞬間、自分が見てた心斎橋のスポーツバーでは30人ぐらいのお客さんが一斉に立ち上がり叫びました。世紀の逆転、世紀の一本勝ちとしてノゲイラが最初の伝説を作った試合でした。
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PRIDE.25(2003)
vs Fedor Emelianenko

UFC Fight Pass
ノゲイラの後にリングスで頭角を表して同じようにPRIDEへやってきたエメリヤーエンコ・ヒョードル。そう、ヴォルク・ハンの弟子!セーム・シュルトとヒース・ヒーリングをボコボコにして、ノゲイラのヘビー級王座挑戦。当時K-1方面で盛り上げていたミルコ・クロコップとボブ・サップが同じ頃に対戦していて、この試合の煽りVTRの締めが「サップ、ミルコはお呼びでない。これが正真正銘、世界最強決定戦」というセリフでした。話題性ではなくレベルの高い戦いを表現したこの2人がメインという、今後のPRIDEの方向性をしっかり示した形。ノゲイラの下からの柔術をことごとく封じパウンドで追い詰めたヒョードルが、世界最強と言われ始めた記念すべき日です。
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PRIDE(2003)
vs Mirko Cro Cop

UFC Fight Pass
前の年にスポット参戦はしていたが、本格的にPRIDEヘビー級に参戦してきたミルコ・クロコップがヒース・ヒーリングとイゴール・ボブチャンチンを破壊的なキックで倒して、ヒョードルの王座へ挑戦か!?と思いきやヒョードルは拳の怪我で欠場。PRIDE初めての「暫定王座」を巡ってノゲイラと対戦となりました。最高峰の寝技vs打撃。前年に対戦しているヴァンダレイ・シウバはノゲイラに「脇腹に何発受けても絶対にガードを下げるな。顔にキックを受けるな」と言ったらしい。前の試合ハイキックを受けたボブチャンチンは誰もが死んだかと思う迫力。それぐらい当時のミルコのキックは未知の怖さがありました。試合は終始ミルコのキックを受け打つ手をなくしていったノゲイラが1R終了間際にハイキックでダウン、追い打ちを食らうあたりでゴングに救われるという絶体絶命の瞬間がありながら2Rに一転、タックルを決めマウントから腕十字を極めミルコが初タップという、サップ戦を思い出させる逆転劇。PRIDEのリングにおける伝説の試合をしっかり残しました。
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PRIDE Heavyweight Grand Prix finals(2004)
vs Fedor Emelianenko

UFC Fight Pass
ミルコに勝ったもののヒョードルとの対戦チャンスがなかなか訪れず、その間に始まったヘビー級トーナメントできっちり強豪を倒し決勝まで上がり、同じく上がってきたヒョードルと待望のリベンジ戦。入場前の気合いの入り具合、開始から前の続きかのような速攻の組み、勝負。引き込み脚を取り腕を取り・・・今までにないスピーディーな動きで先制攻撃を続けるノゲイラに、進化と覚悟と可能性を見て熱狂したものです。残念ながらバッティングでヒョードルが続行不可能になり無効試合となってしまいますが・・・この試合でのノゲイラはかなり強い状態だったと今でも思います。
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PRIDE Pride Open-Weight Grand Prix semifinal(2006)
vs Josh Barnett

UFC Fight Pass
ヒョードル、ミルコとのヘビー三強時代に割って入ってきたのがジョシュ・バーネット。若くからUFC王者として有名だったジョシュが中でも安定感のあったノゲイラに対してグラップリングで真っ向勝負を挑むという、今までの誰も、ヒョードルですらやらなかった戦いで一進一退の攻防が会場を盛り上げました。その中でジョシュの左フックが入りノゲイラがダウン!それが響いたのか判定でジョシュが勝利。大味になりがちなヘビー級において奥深い試合でした。
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UFC 81(2008)
vs Tim Sylvia

UFC Fight Pass
PRIDE最後はジョシュにリベンジし、戦う場所を求めてすぐUFCに移籍。王者のランディ・クートゥアーが契約で揉めてたり、正直層が薄かったヘビー級ということもあってか2戦目でティム・シルビアとの暫定王座決定戦。それでも長くUFCヘビー級の顔だったシルビアとの顔合わせは豪華なものでした。試合はシルビアのフックでダウンして追い詰められてからの逆転フロントチョークで勝つという、お得意の大逆転を演じたんですが、この時はサップ戦やミルコ戦での感動よりもノゲイラのダメージが心配でした。さらにこの後フランク・ミアに人生初のKO負けをしてこの暫定王座を失うのです。
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UFC 110(2011)
vs Cain Velasquez

UFC Fight Pass
PRIDE時代の輝きをいまいち取り戻せないまま当時無敗でトップに上がってきたケイン・ベラスケスと対戦。それまでレスラー戦法のイメージが強かったベラスケスの強烈で的確なパンチのコンビネーションになす術なく倒れるノゲイラ。あの世界最強だったノゲイラの記憶を完全に粉砕された衝撃的な試合でした。引退がささやかれ始めたのがこの頃かと。ベラスケスはこの次の試合でブロック・レスナーを倒して王者に。
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UFC 140(2011)
vs Frank Mir

UFC Fight Pass
一度負けたフランク・ミアとのリベンジ戦。ベラスケスに負けてから少し休んだ後のブレンダン・シャウブ戦ではかなりの気合いと今までとはるかに違う安定したパンチのテクニックを見せて、戦い方は変われどPRIDE時代を思わせる輝きを感じた試合があっただけに、今回は期待が持てました。試合では希望通り、圧倒して組んでエルボーからパンチで、完全に効かせミアがダウン。落ち着いてパウンド当てたところまではよかったんですが、そこから首を取りに行きます。追い打ちをパウンドで仕留めるか極めにいくかはたぶん選手は悩むところだと思うんですが、結果論としてはこの時ノゲイラはパウンドに行くべきだったなと。首を取りに行った腕を取られ逆にキムラアームロック。ミアも腕関節上手いのです。なんとか返そうとするも取られた腕は外せず、しっかり形を作られ我慢・・・関節が完全に外れた瞬間ノゲイラは初のタップアウト。非常にもったいない負け。ミアには初のKO負けと初のタップアウト負けをつけられてしまいました。
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このノゲイラの、デビュー直後からキャリア終盤を通して印象的な試合を常に生み出してきたことがすごいところで、なかなかこんな人いませんね。UFCで今年負けた後、引退してレジェンド的な扱いでUFCで何かやっていくみたいです。とりあえず無事にキャリアを終えてもらえてよかった。21世紀の激闘王、柔術マジシャンに感謝。